注目の園紹介

五感をフルに使った体験で、子どもの「にんげん力」を支える環境が広がる ASAKA HOIKU TOURレポート(朝霞どろんこ保育園編)

2022年8月22日、埼玉県朝霞市で、社会福祉法人どろんこ会の高堀雄一郎氏と元気キッズグループ代表の中村敏也氏が主催する両社運営の園見学会「ASAKA HOIKU TOUR」が開催されました。
どろんこ会は「五感をフルに使った体験を通し、自分で考え、行動する子どもを育てる」ことを、元気キッズグループは、「地域の人びととつながり、ネットワークのなかで子どもを育てる」ことを目指し、それぞれの理念に基づき、広く保育事業を展開されています。

両社はどちらも朝霞市でユニークなスタイルの保育園を経営されており、日本国内はもちろん、海外の保育関係者も視察に訪れるなど注目されています。
「直接体験」重視のどろんこ会の保育は、どのようにして生まれたのか。どのようにして広がっていったのか。
どろんこ会グループの認可保育園としての1号園、「朝霞どろんこ保育園」の取り組みを通してご紹介します。

>>>>元気キッズグループの園見学会の模様はこちら

「自分がどう生きるのか」を決められる子を育み、支える保育

朝霞どろんこ保育園は、2022年8月現在150以上もの施設を展開するどろんこ会グループの認可保育園としての1号園です。
どろんこ会グループは、代表の高堀雄一郎氏と安永愛香氏ご夫婦が、ここ朝霞市で子育てをするなかで、おふたりの心のうちに芽生えた「保育を変えたい!」という強い思いから生まれました。

子どもを決まった時間だけ預かり、決まった活動を繰り返す形ではなく、保育士自身も目の前にいる子どもたちに今、なにが必要なのかを考え、試行錯誤をしながら保育ができるように変えていきたい。
「そのために必要なのは、五感をフルに使った体験だという考えは、はじめて朝霞駅前に託児所を開設した23年前から変わりません」と高堀氏は語ります。

高堀雄一郎氏「23年前に開設した託児所でも、畑を借りて、種まき、雑草ぬきから子どもと一緒に行い、土とふれあうことを大切にしてきました」

今、朝霞どろんこ保育園の園庭には、緑の陰が気持ちのいい築山があります。
タイヤのぶらんこ、ツリーハウス、タイヤ跳び、ブルーシートを敷いた手づくりスライダーがあり、子どもたちはそこを裸足で駆け回ります。土と泥にまみれ、虫をつかまえます。
子どもたちはみな、心身を躍動させ、生きる力を全身にみなぎらせていました。

先生たちも子どもと一緒に裸足で園庭に出る
園庭にあるすべてのものが遊びの道具になる

自然のなかで、子どもたちは自分が何をしたいのかを、自ら見出して遊び込みます。そのなかで、なにが起こるかわからないこれからの時代に必要な思考力が身についていく。
どろんこ保育園の保育士たちは、そんな子どもたちを導くのではなく、ともに裸足で土を踏み、見守り、支えています。

「生きる力」を身につけていくどろんこ流のインクルーシブ保育

朝霞どろんこ保育園の園舎は、歴史ある小学校のようなどっしりした木造の建物です。天井には存在感のある太い梁が渡されており、その梁にロープをかけて、子どもたちはターザン遊びをしていました。
3~5歳の保育室は3部屋横並びで壁がないため、廊下に出ずにそのまま行き来ができるようになっています。
それぞれ、思いっきり体を使った遊びができる部屋、ブロックや積み木などのおもちゃで遊べる部屋、じっくり創作に取り組める部屋になっており、異年齢の子どもたちが一緒になって、自分の好きなところで遊びます。
視察の際には、ちょうど絵本のコーナーに3、4、5歳児が3人で集まり、一緒になって絵本を覗き込んでいました。

異年齢、かつ障害の有無に関わらず混ざり合って共に生活する中で、「自分のやりたいこと」をするにはどうしたらいいか考え、先生や友だちと相談し、行動する……そのなかで、助け合ったり、頼り合ったり、時にはぶつかり合うことで、子どもたちは感情をコントロールしたり、協力し合ったり、目標を達成する力を身につけていきます。

ガラスの引き戸の奥に壁のない教室が並んでいる
巨大な木を組み立てて小屋をつくる姿はまるで職人さん

園の門扉の外には、「勝手かご」と銘打たれたかごが置かれています。
かごにはそれぞれ乳児用のロンパース、サイズごとのTシャツ・トレーナー、ズボン・スカートが入れられています。
着なくなった子ども服を、園の関係者に限らずだれでも勝手に入れていけて、誰でも勝手に持っていける無人・無料のフリーマーケットなのです。

看板には「たまたま前を通ったあなた!」に呼びかけるメッセージが書かれている

このエコな取り組みに対し、「勝手かご」という気取らないネーミングをするのもどろんこ会らしいところ。
朝霞どろんこ保育園には、子育て支援センター「ちきんえっぐ」も併設されており、そこへ立ち寄ったついでにこの「勝手かご」を利用することもできるし、この「勝手かご」をきっかけに子育て支援センターの存在を知る人もいることでしょう。
地域の人とのつながりを生み、広げ、根づかせる役割を担っていることがうかがえます。

朝霞どろんこ保育園にはありませんが、ほかのどろんこ保育園では児童発達支援施設が併設されているところもあります。そこでは、障害の有無に関わらず、混ざり合って遊び、生活し、活動します。泥遊びをしたい子、室内で遊びたい子、遊びたい相手、遊びたい場所を子どもが自ら選択しています。

それが、どろんこ保育園の目指すインクルーシブな保育の環境なのです。
裸足で土を踏むことが感覚統合に役立つ…といった専門的な視点もあるのかもしれませんが、それ以上に「子どもを分け隔てない」というどろんこ会の思いが根っこにあるのではないでしょうか。

ヤギとにわとりも朝霞どろんこ保育園の大切な仲間。お誕生日には産みたて卵がもらえるそうだ

保育士一人ひとりが考え、実践することで、理念が浸透し、輪が広がる

朝霞どろんこ保育園の近くには、黒目川という一級河川が流れています。
ここでの川遊びは、10年前に新卒で入職したひとりの保育士の発案からはじまったそうです。

「目の前に川があるんだから、ここで思いっきり川遊びをさせたい」

発案者である築地先生はそのアイディアの実現に向けて、安全に川遊びをするための研修を受け、資格を取得したそうです。その後、園児の人数分のライフジャケットを購入し、週に1回は川遊びをするようになりました。

今はメリー★ポピンズ 東武練馬ルームの園長を務める築地先生

台風はもちろん、雨が降ったあとは流れの速さや水位が変わります。必ず川遊びの直前に大人が確認し、子どもたちの安全確保を徹底することで、朝霞どろんこ保育園の川遊びは今も続いています
発案者である築地先生が現在園長を務める系列認可保育園「メリー★ポピンズ 東武練馬ルーム」では、親子川遊びイベントとして、この黒目川までバスで遊びに来ることもあるそうです。

この川遊びは例のひとつで、どろんこ会では保育士一人ひとりが、子どもの「にんげん力」を育てるためにはなにが必要かを考え、それぞれの実現したい保育のために相互に研修を行い、実践を積み重ねています。受け身にならず、自主的に考え、能動的に動く。
こうした人が集まっているため、本部でしくみを作って、全体に落としていくのではなく、各園の自治に任せている範囲も大きいそうです。

高堀雄一郎氏「10年たって、理念が浸透し、高まってきていると感じています」

自治とはどういうことかというと、いま目の前にいる子どもになにが必要か、子どもがなにを求めているのかを考えて、実行すること
それができるのは本部ではなく、各園、保育士ひとりひとりだと高堀氏は言います。自分のことをまっすぐに見つめ、必要なことを考えて用意される環境と体験。それを受けて育った子どもは、できないことがあっても、試行錯誤をしながらどう生きていけばいいのか、自分がどう生きたいのかを見つけられるのでしょう。

■朝霞どろんこ保育園
事業種別:認可保育園
定員:90名
職員数:24名
所在地:〒351-0033 埼玉県朝霞市大字浜崎69-1

(取材・文:山口美生、撮影:中村隆一、編集:ホイシル編集部)

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