株式会社Lateral Kids(ラテラルキッズ)が各地で運営する「もりのなかま保育園」では、子どもたちの好奇心を育てるための探求型プログラム『サイエンス+』を導入しています。その中のひとつ、千葉県四街道市の「もりのなかま保育園 四街道めいわ園サイエンス+」では、日々の“実験”を通じて子どもたち、そして保育の現場にもさまざまな変化や発見があったそうです。園長の松澤和子先生(写真中央)、保育士の佐藤三紗先生(写真左)、小宮真子先生(写真右)にお話を伺いました。 (2025年6月某日取材)
サイエンス+とは?
日常の中にある「なぜ?」「どうして?」といった子どもたちの疑問を引き出し、探求することを楽しむためのプログラムです。創造力、思考力、実行力、自己肯定力の4つの力を育むことを目指し、子どもたちが楽しみながら学び、成長できる場を提供します。
「正解」よりも「なぜ?」を大切に
―「サイエンス+」を導入した背景について教えてください。
松澤園長:従来の保育の現場では、子どもたちの「なんでだろう?」という疑問を一緒になって考えたり探求したりする機会がどうしても限られてしまうという課題がありました。日常の中にある不思議を、もっと子どもたちと一緒に楽しみながら深めていきたい。それが「サイエンス+」プログラムを導入した一番の理由です。特別な道具や設備がなくとも、身近な素材を使って多様な視点で楽しめる方法を提案しているところにも共感しました。
当園の理念のひとつは、「寄り添う」です。一人ひとりの子どもに寄り添い、個性を受け入れ、個性を大切にして愛情を育む。それぞれの「なんでだろう?」に向き合うことも、「寄り添う」保育の一部だと私たちは考えています。
―導入から3年が経ちましたが、子どもたちの反応はいかがですか。
佐藤:子どもたちの反応は初回からすごくよかったです。「サイエンス+」を始めてからは、普段の遊びの中でも「やってみよう!」と挑戦する気持ちが前に出るようになった子どもが増えたように感じます。
例えば、お散歩のときに知らない植物を見つけると「先生、これ、ちゃんと“観察”してみたい!」と提案してくる。木になっている梅の実を見せて「これが梅干しになるんだよ」と教えると、「自分たちでもつくってみたい!」と好奇心を全開にして反応してくれます。こうした姿も、「サイエンス+」によって育まれた好奇心のおかげなのかもしれません。
そこで、今年は園で初めて梅干しづくりに挑戦しています。チャック付き保存袋を使ってほんの少量の梅を漬けているだけですが、これもまた子どもたち自身の疑問を発展させていく力がついたことの現れなのかなと感じています。

―実際のプログラムは保育士の先生方が教えているそうですが、現場で心がけていることはありますか?
佐藤:正解を教えすぎないこと、でしょうか。「サイエンス+」に限った話ではないのですが、子どもたちに何かを教える側として、「上手くできるように」との思いからつい細かく指示を伝えることが以前は多かったんですね。
でも、子どもの可能性ってやっぱりすごいんです。私は今、幼児クラスの担任をしていますが、子どもたちは大人が思っている以上に自分の頭で考え、手を動かすことができます。遠回りしても、ちゃんと自分で答えまで辿り着ける力がある。
「サイエンス+」を始めてからそのことを再認識しましたし、ヒントは出しても「正解」を教えすぎないことを心がけるようになりました。それに、そのほうが子どもたち自身の満足感にもつながりますから。
小宮:私は「サイエンス+」導入時は1歳児クラスの担任だったのですが、「1歳さん、2歳さんができるサイエンスなんてあるのかな?」という不安のほうが正直大きかったです。私自身も理科が得意なわけではありませんでしたから。
でも、指導用の冊子を読んでみたら、私たちが普段の保育で取り入れている「感触遊び」に近いものだったり、身近なものを使った遊びだったりが豊富にあったんですね。実際に試してみたところ、1歳児でもすごくいい反応をしてくれたことには驚きました。
まだ乳児ですから「今、やってみたい子はやろうね~」という感じで無理強いはしていませんが、白衣を着ることや実験用具的なアイテムにふれるワクワク感も含めて、楽しめている子がほとんどです。

―子どもたちが実験で着る白衣も、ボタンがカラフルだったりかわいい模様があったりと、子ども心をくすぐるデザインですね。
松澤園長:子どもたちは、実験のときに着る白衣が大好きです。白衣を身にまとうと、「どんなわくわくやドキドキが始まるのかな?」と目を輝かせている様子が伝わってきます。
実験に夢中になるあまり、白衣はすぐに汚れてしまいますが、それもまた学びの証。
保護者の方には、「その汚れは、子どもたちが真剣に取り組んだ“実験の証”です。無理に落とそうとせず、ぜひそのまま大切に残してあげてください。卒園の日、この白衣にどんな“色”が重なっているのか——それを一緒に楽しみにしていきましょう」とお伝えしています。
ワクワクを引き出すための工夫
―具体的に、どんな内容のプログラムがあるのでしょう?
佐藤:今日の5歳児クラスでは、「化学変化に興味を持つ」というテーマで実験をしました。小麦粉、重曹、ベビーオイルをジップロックに入れて混ぜたものを、絵の具を垂らしたトレイの上に乗せます。そこにスポイトで酢を垂らし、どんな変化が起きるかを確かめる実験です。
実験用具を共有にすると「私がスプーンで混ぜる!」「僕も混ぜたい!」と取り合いになりがちなので、それぞれのペースで実験を進められるように、白衣やビーカーなどの道具は基本的にひとりずつ専用のものを用意しています。実験を通じて物を大切に管理する機会にもなれば、という思いもあります。

―5歳児クラスを見学させてもらいましたが、こねる作業に夢中になる子、「もずくみたい!」と酸っぱい匂いに反応する子、「シュワシュワする~」と感触を楽しむ子などさまざまな反応が引き出されていましたが、各自のペースやしたいことを尊重している印象を受けました。
佐藤:そうですね。やっぱりどこに興味が湧くかは一人ひとり異なりますから、基本的な実験の流れを伝えながらも、それぞれの興味があることを尊重しています。あとは、子どもは集中力が続く時間が短いので、目に見える変化だけではなく、音、匂い、感触など、五感を使っていろんな変化を感じ取れるような声掛けも毎回意識しています。
実験の進め方も、子どもたちの反応を受けて、ときには柔軟にアレンジします。例えば、今日の実験も本来は材料を混ぜる手順はなかったのですが、「混ぜてみたい!」という声があったので、計画を変更して自由に混ぜてもらいました。そんなふうに、危険がないと判断した場合は、子どもたちの自由な発想が最大限に発揮できるようにしています。そうした経験の積み重ねが、自分の頭で考え、解決する力を育てていく助けになるのかな、と思っています。
小宮:年長さんほど高度なことはできませんが、 私が担任をしていた1歳児クラスの子どもたちも葉っぱを観察したり、寒天を使って感触遊びを楽しんだりと、遊びの一環として「サイエンス+」を楽しんでいました。葉っぱを観察するといってもただ肉眼で見るだけではなく、ライトテーブルに乗せて葉脈や模様をじっくりと見ることができるので、違う葉っぱを比較するなどして夢中になる子が多かったですね。
そういえば、ある保護者の方から「最近、家での遊び方が変わってきました。週末に出かけた公園の遊び方でも、探求心が育っているのを感じます!」と報告がありました。いろんな刺激を受けて、子ども自身の興味の範囲がどんどん広がっているのかもしれません。

松澤園長:子どもたちの探求心が、日々ぐんぐん育っているのを園長として強く実感しています。
例えば、園で育てたじゃがいもを収穫したときのこと。ある子が、じゃがいもに開いた穴を見つけ、「なんで穴が開いているの?」と疑問を抱きました。そして土を掘ってみると、幼虫を発見したそうです。「この虫がじゃがいもを食べたのかもしれない」「ファイバースコープで穴の中を見てみたい!」と、発見からさらに探求へと興味が広がっていきました。
また、ある日公園で遊んでいたときには、「走る前と後で、胸の音が違う!」と子どもたちが気づきました。「なんだかドキドキしてる!」と感じた子もいて、それを想定していた保育者が持参していた聴診器を使い、お互いの心音を聞きあったり、「公園の木は音がするのかな?」と身の回りのものにも聴診器を当てて調べていました。
こうした日々の気づきや発見が、子どもたちの探求心を育み、やがて自己肯定感へとつながっていきます。これからも、そんな成長のプロセスを大切に、あたたかく見守っていきたいと思います。
先生たちの意識にも変化が
―もりのなかま保育園ならではの独自の取り組みなどがあれば教えてください。
松澤園長:佐藤からも先ほど少しお話させていただきましたが、私たちは一人ひとりの子どものペースを尊重し、チャレンジする気持ちや楽しさを損なわないよう、常に丁寧な配慮を心がけています。個性を大切にすることで、その子ならではの素敵な一面が自然と見えてくるのですね。
今回の実験では、集団での活動が少し苦手なお子さんも、「サイエンス+」の時間になると先生の話をしっかりと聞き、化学変化を楽しんでいる様子が見られました。自分の興味をきっかけに、主体的に取り組む姿からは、その子の新たな一面が感じられ、とてもうれしく思いました。
これからも、「サイエンス+」を通して子どもたちが自ら「わくわく」「ドキドキ」を感じ、自信につなげていけるよう、丁寧に寄り添っていきたいと思います。

松澤園長:また私たちの園では、異年齢保育を取り入れており、その関わりが「サイエンス+」の取り組みにもよい影響を与えています。年上の子どもたちの姿を見て、「やってみたい!」と目を輝かせる年下の子たちは、真似をしながら少しずつできることを増やしていきます。
異年齢での関わりの中で、子どもたちは自然と思いやりの心や、相手を大切にする気持ちを育み、それがまた次の世代へと受け継がれていきます。最近では、自分の思いを言葉にして伝えようとする姿も多く見られるようになり、日々成長を感じています。

―教える側である先生たち自身にも何か変化はありましたか。
松澤園長:最初はどの先生方も不安そうでしたね。「指導用の資料はあるのだからとにかくやってみよう!」 という感じでのスタートだったのですが、子どもたちの反応が本当によかったので、担任の先生方もそれにつられてどんどん積極的に提案してくれるようになりました。
佐藤: 本当にそうですね。最初は戸惑いが大きかったのですが、今は「一緒にどうやって楽しもうかな」と考えられるようになりました。日常生活の中で子どもたちから出たアイデアを拾って、「それもサイエンス+でやってみようか!」とごく自然につなげられるようになった気がします。

保育士として、これまで私は絵を描くことや歌を歌うこと、体を動かすことなど、「たくさんのことを経験させてあげたい」「教えてあげたい」という気持ちが強くありました。
しかし、「サイエンス+」の取り組みを通して、子どもたちの気づきに耳を傾け、そこから一緒に活動を考えていくことで、意欲がより自然に引き出されることを実感しました。
教えるのではなく、寄り添いながら共に探求していくことの大切さを、改めて学ばせてもらいました。
小宮:私は、「言葉として表現する以前の子どもたちの反応」を間近で見続けられたことが学びになりました。当たり前ですが乳児さんたちはまだ言葉が上手ではないので、実験中も「これなんだろう?」といった感じでじっと見ているだけの反応も多いんですね。指にスタンプをつけて指紋を採る遊びをしたときも、じーっと指のシワを無言で眺めていましたが、その子の中では考えているその思考の時間がきっと大切なんですよね。言葉がもっと上手になる前の段階の、そんな反応も含めて今後はもっと大切に見守っていけたらと思っています。

松澤園長: 先生たちの中にあった保育の固定観念が少しだけ外れて自由になった、そんな印象を私も受けています。
―最後に、園長先生が「サイエンス+」を通じて実現していきたい保育の形についてお聞かせください。
松澤園長:子どもたちは成長の過程で、必ず何かしらの困難にぶつかります。そんなとき、「なぜだろう?」と自分で問いを立て、その壁を乗り越えていく力を育ててほしい——それが、私たちの願いです。
その力を育むひとつの手段として、「サイエンス+」を通じて、子どもたちに「なんでも挑戦していいんだよ」というメッセージを、これからも伝え続けていきたいと思っています。そしてそれは、子どもたちだけでなく、一緒に働く先生たちにも届けたい思いです。
新しいことに前向きに取り組んでくれている先生方には、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
今後は、そうした先生たちがより「サイエンス+」を実践しやすくなるよう、園全体の環境をさらに整えていく予定です。たとえば、子どもたちが散歩で出会った草花や生き物にすぐアクセスできるよう、お部屋の一角に虫や草花などの図鑑を置いたコーナー「図鑑ステーション」を設けたり、現在は、常設の「サイエンス+コーナー」をつくれないか、先生たちと相談しているところです。
こうした環境整備は決して大がかりなものでなくても、日常の中に「気づき」や「探求」が自然に生まれる仕掛けをちりばめていくことが大切だと考えています。これからもみんなで力を合わせながら、子どもたちと一緒に「なぜ?」を楽しんでいける場をつくっていきたいです。
―「サイエンス+」の時間だけで終わらせるのではなく、子どもたちの疑問を育てていける環境整備ということですね。もりのなかま保育園で成長した子どもたちが、将来どんな素敵な大人になっていくのか、楽しみです!

<編集後記>
もりのなかま保育園を運営する株式会社Lateral kidsは、その他にも10園以上で「サイエンス+」を実施しており、四街道めいわ園以外の園でも年間120回ほどサイエンスの時間を設けているそうです。「なんでだろう?」と疑問を持ち、実際に手を動かしてみる。そんな探求心がぐんぐん育っている子どもたちが、きっと各園にいるのだろうと感じました。
また、都心の小規模保育施設では、0歳〜2歳を対象とした「ぷちサイエンス+」を導入している園もあるそうです。「たとえ園庭がなくても、サイエンスはできます」とおっしゃる先生の言葉が印象的でした。
「サイエンス+」の導入によって、子どもたちはもちろん、先生や保護者にも大きな変化があったことが伝わり、こちらまでワクワクしてくるような取材でした。
(取材・文:阿部花恵、撮影:中村隆一、編集:コドモン編集部)

■もりのなかま保育園 四街道めいわ園サイエンス+
事業種別:認可保育所
定員:60名
所在地:千葉県四街道市めいわ1丁目26番8号
JR四街道駅徒歩20分
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