はじめに
近年、保育現場でもDXが進んでおり、特に業務支援ツールの保育ICTシステムはすでに全国の保育施設の84%以上(※)で活用が進んでいます。
こうした時代の流れを受け、松山東雲女子大学の心理子ども学科 子ども専攻では、学生が保育現場ですぐに活躍できるよう、一般社団法人保育ICT推進協会が実施する「保育ICT検定」と実践的なICT活用に関する授業を実施しています。
本記事では、この取り組みを推進されてきた影浦紀子先生に、保育ICT授業への想いや、具体的な授業内容について詳しくうかがいました。
※三菱UFJリサーチ&コンサルティング「保育施設等における ICT 導入状況等に関する調査研究事業報告書」令和7年3月
松山東雲女子大学
授業実施学科:心理子ども学科 子ども専攻(保育士・幼稚園教諭養成課程)
所在地:愛媛県松山市
検定を実施した科目名:保育・教職実践演習(4年生・必修)
受講学年:4年生(検定実施) / 3年生(ICT講義)
受講人数:4年生 34名(今年度)お話を伺った方:影浦 紀子 先生

検定実施の背景――なぜ今、「保育ICT」を授業で学ぶのか
ー 保育ICTの授業を積極的に実施していると伺いました。先生の想いをお聞かせください。
文科省から、教職実践演習にICTの活用についての内容を含めるようにというお知らせがあった頃、御縁があり保育ICT推進協会の方と出会いました。保育教職実践演習で保育現場のICT化についてお話いただいたり、実習記録のデジタル化に関する共同研究も行いました。
さらに、3年生の「幼児教育の方法」という科目の中で、全5回分保育ICTの講義をお願いしています。ここでは、保育現場で役立つ知識と実技を学ぶことに注力しています。
従来、私はICTの活用が、業務の省力化になることは理解していたのですが、実際の保育や子どもの理解を深めるために活用することができないだろうかと考えていました。
そんなときにちょうど講義のあと、学生から「ICT化とDX化の違いはなんですか」という質問がありました。講師からは、「DX化は、再構築すること、積み木を壊して積みなおすこと」だと教えてくださいました。
単にこれまでの保育にICTを導入しただけでは、本質的な改革(transformation)が起きていない。今の保育に求められること(一人ひとりを理解すること)と本質をしっかり吟味して、再構築していく必要があると考えるようになりました。特に、子どもを真ん中にして理解が深まるような学びを、学生たちに伝えていかなければならないと考えています。
ー 講義に加え、保育ICT検定を授業に取り入れた目的を教えてください。
就職し、現場に出ていく学生たちに自信を持たせてあげたいという想いです。現場を「怖い」と感じる学生が多いので、検定に合格し「これを持っているよ」「これ勉強したよ」と履歴書に書けることが、学生たちにとって大きな自信になると考えました。実際、ほぼ全員が合格しており、「一つ何か武器が持てた」と学生たちは感じているようです。

授業の様子――実践的な学びの現場
ー 講義の詳細について教えてください。
5回の講義では、現場で実際に使われているICTツールに触れる実技や、ChatGPTなどの生成AIを使ってみる演習を取り入れることで、学生が単に知識を持つだけで終わらせず、実践的な活用法を学べるように工夫しています。特にドキュメンテーション作成では、学生が実際に「つくってみる」「操作する」という実技演習を重視しています。
- ◯ 第1回「幼児教育におけるICT活用①」
- 国の動向、ICTシステムの活用例(実技:実際のICTシステム体験)
- ◯ 第2回「幼児教育におけるICT活用②」
- 情報セキュリティ、リスクマネジメント、よくあるトラブルとその対応(グループワークを含む)
- ◯ 第3回「子どもとデジタルデバイス」
- 子どもをとりまく環境のデジタルの実態、幼児教育におけるデジタルデバイスの意義(グループワーク含む)、保育環境としてのデジタルデバイス
- ◯ 第4回「保育とAI」
- AIとは、国の動向、生成AIの活用例(実技:文章添削、アンケート集計など)
- ◯ 第5回「ドキュメンテーション」
- ドキュメンテーションとは、ドキュメンテーションとより良い保育の関係性、実技:ドキュメンテーション作成

ー 保育ICT検定の実施方法についても教えてください。
検定は、4年生全員が受講する必修科目「保育・教職実践演習」の中で実施しています。検定の前に、保育ICT推進協会の方の講義があり、その後に検定試験を実施する形です。
学生は就職活動を控えていることもあり、とても真剣に向き合っています。「合格しなかったらどうしよう」「事前の学習をした方がいいか」という声も聞かれ、非常に意欲的です。
ー 今後の保育ICTに関する学習について展望がございましたらお伺いさせてください。
検定も講義も、学生の自信と知識向上に大きく役立っているため、来年度以降も継続する予定です。学内では、情報リテラシーやAIとデータサイエンスといった科目もあるため、より学びも深まると思います。
また、今後は、学生にICTに実際にふれてもらう体験的な授業をさらに充実させていきたいと思っています。
例えば、現在担当している「保育内容の言葉の指導法Ⅰ」という授業で、子どものつぶやきをもとに連絡帳を書くという課題がありますが、この連絡のやりとりをICTの「保護者連絡」機能を使って体験させることを考えています。
他にも、「保育カリキュラム論」や「保育方法論」といった科目では、ICTを活用して指導案を作成してみるなどもやってみたいですね。

講義担当者の想い――一般社団法人保育ICT推進協会
ー 最後に講義を実施した一般社団法人保育ICT推進協会代表理事の三好冬馬さまへおうかがいします。ICTに関する授業への想いを教えてください。
近年、国の動向を背景に、保育現場におけるICTやDXは大きく変化しています。単にシステムや機器を導入する段階から、活用の質や精度が問われる時代へと移りつつあり、今後この流れはさらに加速していくと感じています。
そうした中で、これから保育の現場に出ていく学生の皆さんが、保育におけるICT・DXについて基礎的な知識や考え方を養成校の段階で理解しておくことは、非常に重要であり、今後ますます必要性が高まっていくと考えています。
一方で、養成校の先生方からは「ICT・DXの授業の必要性は感じているものの、どのような内容を扱えばよいのか分からない」といったご相談をいただくことも少なくありません。
国や現場からの要請はあるものの、具体的な教材や指標が見えにくいという課題があるのが実情だと思います。
その一つの選択肢として、保育ICT検定を授業の中で活用していただくことには大きな意味があると感じています。
学生のうちに、ICTが保育のどの場面で、どのような目的で使われているのかを知っておくことは、現場に出た後の戸惑いや不安を減らし、学びをスムーズにつなげることにつながります。
実習やボランティア体験だけでは、保育現場のICTに触れる機会はどうしても限られてしまうため、学びの場の中で安心して触れ、考える機会があることはとても意義深いことだと感じています。
保育ICT検定や、私たち保育ICT推進協会が行っている講義や取り組みが、そうした学びの一助となり、学生の皆さんと現場をつなぐ架け橋になれば幸いです。
今後も、国の動向や保育現場の実情を踏まえながら、できるだけ分かりやすく、そして「現場で本当に役立つリアルな情報」を学生の皆さんに届けていけるよう、取り組みを続けていきたいと考えています。

一般社団法人保育ICT推進協会
代表理事 三好冬馬さま
【保育士養成校の授業で活用できる保育ICT教材 無償提供プログラム】
コドモンでは、未来の保育士とそれを支える教員のみなさまへの応援企画として保育士養成校を対象に、保育現場で実際につかわれているものと同じ機能を授業で利用できる「保育ICT教材無償提供プログラム」を実施しています。ご興味のある養成校のご担当者様は以下のフォームよりお問い合わせください。
