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子どもたちの「今」を大切にするために~発達支援事業所・保育所等訪問支援「朱雀こだま」にかけた想い~

2023年2月に児童発達支援事業所・保育所等訪問支援「朱雀こだま」を開所した社会福祉法人 希望の会の代表、國原智恵先生。
子どもたちが「今」幸せでいられるために、子どもたちの環境を変えずに自分たちを変える。「朱雀こだま」の開所はその第一歩だったとおっしゃる國原先生に、一歩を踏み出すきっかけとなったエピソードとこれから先の展望についてうかがいました。

昨年、「朝霞ツアー」でお会いしたときに発達支援事業所開所に向けてご準備をされているとうかがっていました。そこから半年でオープンというスピード感に驚いています。

保育と直結した感覚統合ができる場所をつくりたいとはかなり前から考えていたんです。
ただ、「朱雀こだま」の開所について言えば、22年9月に場所が決まり、23年2月に開所したので実質準備にかかったのは5か月でした。

國原先生が児童発達支援事業所をはじめられたきっかけを教えてください。

子どもたちにとっていちばん大切なのは、「今」だと私は思っています。
「今」が幸せであれば、30年後、40年後、大人になったときにも幸せがわかる人になるんじゃないでしょうか。

未来を幸せに生きるためには、今、この瞬間を大切に、幸せでないと。
じゃあ、今うちの園にいる子たちを本当に幸せにしてあげるにはどうしたらいいのかを考えたときに、発達支援事業所は不可欠だと思いました。

それは、発達障がいやグレーゾーンの子が増えているからでしょうか?

そうですね、増えているという感覚はあります。
ただ、これは子どもが変わったのではなく、保育のあり方が変わったことが影響しているのではないかと思っています。
今は「子ども主体の保育」という言葉も広まってきましたし、規律よりも子どもの主体性を重んじる園も増えていると思います。

けれど、20年前はまだまだ規律を重視した保育が多く見られました。
子どもが自主的に遊び、遊びのなかから学びとるのではなく、保育者が「こうしなさい」と教えた通りにできることが求められており、そうした保育のあり方への疑問がこだま保育園の開園にもつながりました。
今、子ども主体の保育に変わってきたことで、保育現場でも子育ての場面でも子どもの自由な行動を見ることが増えています。右に倣えでみんなと同じことを意味もわからずやらされているなかでは見えなかった「その子自身の特性」というものが、子ども主体の保育では見えやすくなっているのではないでしょうか。

子どもたちが自由に行動できているからこそ見えてくる特性がある

集団のなかでうまく過ごせない、戸惑っている子が増えたのではなく、その様子が見えるように保育環境が変わってきたということですね。

はい、じゃあそしたら次はどうしよう…ってなるじゃないですか。困っている子がいるのがわかったら、どうしようって。

以前、うちの園に通っていた子に車いすが必要になったことがありました。
そのとき、こだま保育園の施設はバリアフリーではなく、このままうちで保育しつづけることができるのかと悩んでいたところ、担任の保育者が「やりたい、やらせてください」と言ってくれ、その子はこだま保育園で卒園を迎えることができました。
移動のときは抱っこやおんぶになりますから、その職員は腰痛に悩まされ、湿布や注射を打ちながらも、卒園の日までがんばってくれました。
ここで終わるのもまた美談かもしれませんが、環境としては…よくありません。
医療的ケアが必要な子も肢体不自由などの障がいのある子も、発達障がいの子も、うちの園に入った子は、みんな「うちの子」です。
さきほど例に挙げた子のように、途中からなにかしらの配慮、対応が必要になった場合に、「じゃあもううちでは見られません」ということは絶対に言いたくない。そう言わなくていいように、環境を変えていく必要があると思いました。
私たちは病気の専門家ではありませんが、保護者と同じく「その子」の専門家ですから、子どもの環境を変えずに済むように変わらないといけないんです。

0歳の入園時点でわからない障がいはたくさんありますね。

そうなんです。
でも、子どもの発達に違和感を感じたときに、園でできることは限られています。
こだま保育園では10年ほど前からずっと作業療法士の高畑先生(※)に研修をしていただいていて、保育者たちもそれなりの知識をもって対応できてはいると思いますが、それでもやはり専門家ではありません。
保育者の配置人数にも限りがあり、加配のないなかでは個別対応も限界があります。
となるとあとできるのは、保護者に検査を促すことくらいです。
園として加配をつけるには、保護者にその子を病院に連れて行ってもらい、診断書をもらってくることが必須です。
もちろん、そもそもの配置基準自体が限界の状態であり、まずそこを見直すこと、園としてできる限りの手をうって、なるべく配置を増やすという努力もしています。
それでも足りていないのが現状ですので、いわゆる「グレーゾーン」といわれる、診断のついていない子にこれ以上の加配をつけるのは難しいところがあります。診断がつくことで、園としても加配の補助金を受けられますし、より個別の対応がしやすくなりますから、園としてはぜひお願いしたい。
けれど、その診断がつくまでの期間が長いんですよね。

※高畑先生……高畑 脩平先生のこと。藍野大学 医療保健学部 作業療法学科助教であり、作業療法士。共著に『子ども理解からはじめる感覚統合遊び 保育者と作業療法士のコラボレーション』『乳幼児期の感覚統合遊び』などがある。

「朱雀こだま」での療育の様子

病院の予約がとれない、予約がとれるまでに何か月もかかると聞いたことがあります。保護者の負担もとても大きいですよね。

仕事の合間にそうした対応をし、さらに、診断がおりて療育に通う…となると今度はその療育のために保護者が付き添わなくてはいけない。週に1回、2回、仕事を休んでその時間を作らないといけない。本当に、負担が大きいですよね。
そしてなにより、療育に通いはじめられる準備が整うまでのあいだ、必死にもがいている子どもたちの負担ははかり知れません。
苦手なことの多い子どもであっても、ちょっとしたきっかけやコツをつかむことでできるようになることがたくさんあります。その数か月を待つのがどれだけ辛いことか……。
発達支援事業所を自分たちでやっていれば、専任の作業療法士に園に出張にきてもらい、検査前の子にも1対1の対応をすることができます。
診断がおりた子は、園で送迎をして「朱雀こだま」に通わせることもできます。
うちの子どもたちみんなの「今」を幸せにしていくために、発達支援事業所は必要不可欠でした。

保護者にとっては通所の負担もないのですね。

子どもも先生と一緒におでかけができるというので楽しそうです。
開所してからまだ半年ですが、本当にやってよかったと心から思っています。
ただ、「朱雀こだま」の開所はスタートであり、まだまだここからがはじまりだと思っています。

「朱雀こだま」の外観
ここから子どもたちの「できる」がはじまる

國原先生はどのようなゴールを思い描かれているんでしょうか?

いま、看護師や准看護師が在籍している園が増えていますよね。
保育園において看護師が保育者としてカウントできるようになったことが、看護師の在籍している園が増えたひとつの理由ではないかと思っています。
ですので私はこれから先、同じように小児に特化した作業療法士が保育者としてカウントでき、どこの園にも専門の作業療法士がいる未来を目指したいと思っています。

「うちの子」にできることは全部やる、と國原先生

発達障がいやグレーゾーンの子が増えているのは、なにもこだま保育園だけではありません。
規模によって差はあれど、1人も気になる子がいないという園はないのではないでしょうか。
だったら、各園に乳幼児の療育に携わる作業療法士がいて、園内でできる療育、集団のなかでの感覚統合をしてくれる……そんな環境が作れるといいじゃないですか。
それには課題もたくさんあります。たとえば現時点では乳幼児の療育に携わる作業療法士が非常に少ないこと。そもそも小児に特化した作業療法士の教育プログラムがないこと。保育士として配置人数にカウントされるようになるには、法律の見直しが必要なこと。
先は長いですが、「朱雀こだま」はそうした道を切り拓くための鍵になると思っています。

そのゴールに向けて、引き続き私たちコドモンも伴走させてください。これから研修に行かれるというお忙しいなか、お時間いただきありがとうございました!

(取材・文:山口美生、編集:ホイシル編集部)

國原先生が代表をつとめる社会福祉法人 希望の会の施設情報

一人ひとりを大切に。

こだま保育園

事業種別:認定こども園

所在地:奈良県奈良市あやめ池北2丁目3番97号

右京こだま保育園

事業種別:認定こども園

所在地:奈良県奈良市あやめ池北2丁目3番97号

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