注目の園紹介

自分で考えて行動できる子を育む「先生たちの主体性」が生まれたわけ

子どもの「こうしたい」を大切にすると、考える力が伸び活気が生まれる

市川園長:さっき主体性って難しいっていう話をしたんですが、逆に「人権」ってわかりやすいんですよね。子どもたち一人ひとりの人権を大切にしていたら不適切な保育なんて起きようがありません。
給食も午睡も時間を優先して決めちゃうと、先生たちは時間に追われてしまうんですね。そこをちょっとフラットにして「大体これぐらいからごはんだよ」とすれば、遊び込んでいる子に「もうみんなご飯の時間だよ」ではなく「終わったら食べようね」と言えるようになる。子どもたちも自分から「これだけやったら食べる」って言うんです。

下牧さん:園全体が穏やかになりましたよね。「チームで保育をしている」感じがすごくよく表れていると思います。
1人でクラスを持とうと思うと、子どもたちに一斉にこれをやらせないといけない…となりがちです。そのなかで「いやだ」と自分の思いを主張することは「ワガママ」になってしまう。本当は自分の思いを表現できていてすばらしいことなんですが、それを前向きに受け止められません。チームで保育をすると、そういう子の気持ちにも寄りそえるし、先生たちもキリキリせずに済みます。なにより、そうして余裕が生まれると、子どもたちは素直に「こうしたい」が言えるようになるんですね。先生はきっと自分の思いを汲んでくれるという信頼関係ができるというか。

市川園長:子どもたちは「こうしたい」を受け止めてもらえると、意見がどんどん出てくる。活気も生まれますし。でも、なんでもかんでも言えば叶えられるのではなくて、折り合いをつける場面もあります。だけど先生が子どもの思いに向き合って、一緒に考えていくと、子どもは自分で考えて「今はやらない」と結論を出します。「やりたい」ことを「今はやらない」と自分で決められるんです。

市川園長:先生たちが子どもに寄りそうことを大切にして、実行してくれているからですね。七夕の飾りを作ろうかと提案したときに「やりたくない、どうしてもお外に行きたい」と主張する子がいたのですが、折り合いがつけられなくても、「じゃあお散歩行こうね」と言える環境。
意外とお散歩から帰ってきたら「さっきの飾り作りたい」って言ってくれて。制作が嫌なんじゃなくて、お外に行きたい気持ちの方が強かっただけで、ちょっとお外に行けたら気持ちもすっと切り替えられたり。

市川園長:子どもたちの発想はより広がりましたね。

各お部屋にお昼寝用のベッドコットを収納するための空間があったのですが、あるとき先生が「ここを子どもたちの空間にしたい」って提案してくれたんです。いつものように「いいよ、いいよ」というと、みるみるうちにこのスペースが変わっていって……

秘密基地として生まれ変わったコット収納場所。狭い空間が「外」に
扉をつけて「お部屋」に。クラスによってイメージの違う空間になっている

市川園長:最初は段ボールをぽんと置いただけだったんです。子どもたちはなにもないところからこっちにお部屋をつくるから、こっちはお外にしよう…と遊びを発展させ、自分たちの楽しい部屋をつくりあげていきました。
先生たちがそれを見ながら「あ、もしかして今こういうことに興味があるんじゃないか?」と素材を用意すると、また子どもが変わっていく、それがいい循環になって、先生も子どもも楽しくなっていきました。
これまでも「子どもたちにとって」って、子どもに寄りそって考えてきていたけど、視点を変えただけでこんなにも違う保育ができる、子どもと「寄りそう」にもいろんなやり方があるんだって発見があって……今、この子たちが何を求めているのかを考えたり、ちょっとした会話からくみ取れるようになりました。

子どもを起点にした変化は、「行事のあり方」「保護者の関わり方」までも変えていく

市川園長:なににおいても「安全」が確保できるようには気を付けています。
たとえば、戦いごっこで勢いよく走るのは危ない。でも「危ない」と行動を制止しちゃうと子どもの「やりたい気持ち」は満足させられない。「危ないことを楽しみたい」という思いをどう実現させてあげられるのか、安全との両立を考えて、走らずに戦いを楽しめる環境ってどんなだろう?と考え抜く…。そこに正解はなくて、子ども一人ひとりの状態、お部屋の状況によっても変わります。走るかわりに身を隠して飛び出せる段ボールを置いてみるだけでも違うかもしれません。

下牧さん:園にくるたびにあちこちが変わっているので驚きます。前にうかがったときは、2歳児さんのお部屋に「つづきBOX」という場所があったんです。ちょうどトイレトレーニングをしている子が何名かいて、遊びの最中にトイレに行くときに作りかけのブロックなどをちょっと置いておくための場所だったのですが、さきほど見たらもうなくなっていました。

市川園長:トイレやお出かけのときに、「ちょっと置いておく」ができると気持ちを切り替えやすいということでつくっていたのですが、成長とともに不要になったみたいですね。3日来ないと部屋や活動のどこかが変わっているんじゃないかと思います。

早津さん:行事まで変わりましたもんね。

市川園長:「前年の通りに」とか「前年を参考に」から始まることが多かったのが、「今の子どもたちを考えたら……」と子ども起点で考えることで行事のあり方も自然に変わりましたね。
ただ、行事に関しては保護者の期待もありますので、そこは慎重に「なぜ変えるのか」「なにを大切にするから変えるのか」を先生たちとしっかり認識合わせをしたうえで保護者にご説明しました。しかし、すでに日々の保育で変化を感じられていたからか、行事を変えることについて保護者から否定的な言葉は出ませんでした。

下牧さん:日々の子どもの姿や保育の中でのやり取りを保護者に伝えることによって、園の取り組みや考え方が伝わり、浸透していったんでしょうね。行事だけが特別じゃなくて、毎日の保育すべてに意味があるんだということが伝わっているように思います。

市川園長:たとえば「外遊びをしない」という選択をした子に対して、当初は保護者も「え、うちの子だけ外遊びに行かなかったんですか?」と捉えられる傾向がありました。
うちの園は目の前に公園がありますので、「たくさん外遊びできそう」「たくさん体を動かしてほしい」と考えて選んでくださる保護者もいますので、がっかりしてしまうのかもしれません。それに対して「○○くんは行けなかったのではなくて行かなかったんですよ。ブロックを夕方から作りはじめると、完成前にお迎えが来ちゃって途中になっちゃうから、お散歩に行かないで朝からやりたいって取り組んでいたんですよ」と伝えると、お母さんもお散歩に行かなかったことはいいことなんだと認識が変わりますし、「そういえば家でもブロックでよく遊んでいるな」と気づくこともあります。
年長さんのお部屋は、今はものすごくいろいろな創作物であふれていますが、もともとこうだったわけではありません。少しずつ変わっていき、お迎えのたびに「今日はここで、これを作ったよ」「わあすごいね」というやりとりがあったので、保護者の方はなんとなく「主体性を大切にした保育ってこういうことなのか」と感じ取られていったのかもしれません。保護者から「子どもが園の話をよくするようになった」という声も聞いています。

早津さん:保護者も私たちと同じく、変化を体感されたのですね。

市川園長:大きくは変えず、そのままいくつもりです。4月になったら新年度でお部屋が変わるというのは私たち大人の都合です。なので、秘密基地も今の年長さんが作ったものをそのまま置いておくつもりです。使いたければそのまま使えばいいですし、もっと発展させたければ発展させるでしょうし、そろそろ変えたいなという声があがれば変えますし。
子どもが変われば遊びも違うし、月齢もまた少し下がるので、先生たちがそれに合わせて環境を少しずつ変えていくことはあると思いますが、考え方としては、この1年学んだことをそのまま各クラスで取り組んでいきます。3月31日と4月1日で途切れることのない、連続した保育がしたいと思っています。

給食のテーマは「毎年変える」ものだったが、23年度の絵本が好評で来年度も継続することに。変える・変えないにとらわれず、同じテーマでアプローチを変えてみる柔軟さは給食室にも

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