保育士の賃金を底上げ!保育士の処遇改善等加算Ⅰとはどんな制度? 目指そう保育士

保育士の賃金を底上げ!保育士の処遇改善等加算Ⅰとはどんな制度?

保育士は専門職でありながら、他の仕事に比べて賃金が低く抑えられてきた歴史があります。このような背景が保育士の離職を生み、待機児童問題や保育園不足に繋がっています。出生率の改善や女性の社会進出を助けるには、保育人材の確保が急務と考えられています。

育児サービスの充実を図る政府は、保育士の賃金を上昇させる処遇改善等加算という制度を導入してきました。

この記事では、平成27年より導入された保育士の「処遇改善等加算Ⅰ」に焦点を当てていきます。

保育士の処遇改善等加算とは

保育士の処遇改善等加算とは、保育士の賃金を上昇させるための国の補助金制度です。
処遇改善等加算には平成27年度に導入された処遇改善等加算Ⅰと、平成29年に導入された処遇改善等加算Ⅱがあります。
名前こそ同じですが、2つの施策は補助金の対象となる保育士や補助金の仕組みが異なっています。

保育士の処遇改善等加算Ⅰとは

保育士の処遇改善等加算Ⅰとは、保育士全体を対象にした賃金補助制度です。保育士の賃金を上昇させるとともに、各施設における保育士の賃金改善状況を適確に把握するという目的の元、実施されました。
保育士処遇改善等加算Ⅰにおいて、賃金を底上げするための要素は3つの基準に分かれています。

  • ・平均経験年数(キャリア)に応じた基礎分の加算
  • ・賃金改善計画に基づいた賃金改善要件分
  • ・研修の計画、実施などを行っている施設に補助を行うキャリアパス要件分

具体的な内容は後述します。

保育士の処遇改善等加算Ⅱとは

保育士の処遇改善等加算Ⅱとは、特定の役職を対象にした賃金補助制度です。この制度に伴い従来役職の少なかった保育園の世界に「職務分野別リーダー」「専門リーダー」「副主任保育士」という3つの中堅役職が新設されました。これらの役職に対し、以下の補助金が支給されます。

・職務分野別リーダー:月額5千円
・専門リーダー:月額4万円
・副主任保育士:月額4万円

保育士処遇改善等加算Ⅱには保育士の賃金改善と当時に、若手・中堅保育士にも就きやすい役職を作り、将来のキャリアパスを描きやすくするという狙いもあります。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

保育士の処遇改善等加算Ⅰの仕組み

処遇改善等加算Ⅰの仕組みについて具体的に見ていきましょう。

処遇改善等加算Ⅰの対象者

処遇改善等加算Ⅰの対象となるのは、保育園で働くすべての職員です。この中には非常勤職員も含まれるという点がポイントです。保育士には女性が多く、育児や介護などの事情でパートタイムで仕事をする人も多いため、非常勤職員も含めた補助金制度は保育士の労働環境にマッチしたものだといえます。

処遇改善等加算Ⅰの具体的内容

処遇改善等加算Ⅰは、前述したとおり「基礎分」「賃金改善要件分」「キャリアパス要件分」の3つの要素で成り立っています。

基礎分の加算について

処遇改善等加算Ⅰ_加算グラフ
出典:内閣府子ども・子育て本部(平成 30 年度子ども・子育て支援新制度

処遇改善等加算Ⅰのベースになる基礎分の加算は、各施設や事業所で働く職員の平均経験年数によって決まります。この平均経験年数を算出する際には、職員が現在働いている保育園での勤務経験のみならず、過去に働いていた教育・福祉施設の勤務年数を含めることができます。例えば、幼稚園~大学までの学校、認可外保育施設、介護施設、病院、助産院などの勤務歴も合算可能です。

平均経験年数はすべての常勤職員を対象に計算します。この中には1日6時間以上かつ月20日以上勤務する非常勤職員を含みます。

【事例】
A保育園で保育士歴40年の園長先生と、保育士歴20年のベテランが5人、保育士歴2年の新米保育士が2人働いていたとします。
この時A保育園における平均経験年数は(40+20×5+2×2)÷8(職員数)=18年 となります。

基礎分ではこの平均勤続年数によって、加算率が変わってきます。平均勤続年数が0年は2%、1年は3%と1%ずつ加算率が上昇し、10年以上になると一律12%で固定されます。基本的に職員のキャリアによって加算率が上昇する仕組みとなっている点が特徴です。基礎分の加算は、キャリアのある職員の基本給昇給や手当等に使われることが想定されています。

賃金改善要件分とは

これは基準年度から保育士の賃金アップを行った施設に行われる加算です。賃金改善要件分も職員の平均経験年数によって加算されます。
平均経験年数11年未満の場合は一律5%、平均経験年数11年以上の場合は一律6%が加算されます。
例えば平均経験年数が9年の保育園では、基礎分の11%に賃金改善要件分5%をプラスして合計16%の加算を受けることができます。

この賃金改善要件分は、職員の基本給・手当だけでなく、一時金としての支給や、同一法人内の教育施設、法人への分配も可能となっています。
なお、賃金改善要件分の加算を受けるためには、保育園側が賃金改善計画書と賃金改善実績報告書の提出を行う必要があります。

キャリアパス要件分とは

キャリアアップの仕組みを整備している施設に対して行われる処遇改善が、キャリアパス要件分です。

・職務内容や役職に応じた勤務条件や賃金体系が設定されている
・保育士の資質向上を図るための研修を計画したり、実施したりしている

このような保育士キャリアアップへの配慮をきちんと行っている施設に対しては、一律2%の加算がされます。

実はキャリアパス要件分は、すでに賃金改善要求分に含まれています。賃金改善要件分の5%という数字は3%(賃金改善要件分)+2%(キャリアパス要件分)という仕組みで設定されているのです(平均勤続年数11年以上の場合は4%(賃金改善要件分)+2% (キャリアパス要件分))。逆に言えば、キャリアパス要件分の条件を満たしていない保育園の場合、賃金改善要求分から一律2%減額されてしまうので注意が必要です。

処遇改善等加算Ⅰの分配方法について

処遇改善等加算の補助金は、前述した加算の仕組みを元に申請を行った保育園に対して支給されます。

この補助金をどのように分配するのかは、保育園の管理者が保育士の能力や職務内容、園への貢献度などを考慮して決定します。

処遇改善等加算Ⅰは、園全体の給与バランスを調整するのに使うこともできます。柔軟に配分を決定できるのが処遇改善等加算Ⅰのメリットです。

例えば処遇改善等加算Ⅱは特定の役職に対して補助金が出る仕組みで、副主任保育士、専門リーダー、職務分野別リーダーへの処遇改善がメインとなっています。しかしこのような中堅役職への賃金改善を行った結果、主任保育士や園長など本来は役職が上の保育士の給料が中堅役職の給料とさほどかわらないという事態が発生するかもしれません。そんな時、役職が上の保育士には処遇改善等加算Ⅰの補助金を分配することで給与バランスを適切に保つことができます。

一方で処遇改善等加算Ⅰの補助金分配が適切に行われるかどうかは、施設管理者の采配に任されているため、保育士側からは補助金がどのように使われているか分かりにくいというデメリットもあります。調査によると処遇改善等手当Ⅰを年度内に分配しきれず、残高が余ったにもかかわらず翌年の賃金改善に使わなかった施設は平成28年度で23.6%、平成29年度で36.1%に上っています。この点は内閣府も問題視しており、各施設に対し残高を職員の確実な賃金改善につなげるよう周知を行っているところです。

保育士処遇改善の取り組みは自治体レベルでも広がっている

保育士処遇改善の取り組みは、国による処遇改善等手当だけでなく、各自治体でも行われています。処遇改善等手当は保育園に対し補助金が支給されるというものでしたが、保育士個人に家賃補助が行われたり、就職準備金が支払われる制度もあります。

保育士処遇改善の全体的な取り組みについてはこちらの記事をご覧ください。

処遇改善等加算で保育士の賃金は上がっている

全国での保育士不足は深刻な問題です。
保育士の低賃金による離職を防ぐため、国をあげて行われている施策が保育士の処遇改善等加算です。非常勤職員も含めた処遇改善の施策が行われていることは、現在保育士として働く人はもちろん、これから保育士を目指す学生にとっても励みになるでしょう。

一方処遇改善等加算が正しく保育士に分配されるかどうかという問題は残っています。政府の指導に期待するとともに、保育士自身が補助金を適切に分配している良心的な保育園を選ぶことも大切です。

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